痴漢の冤罪で相手を訴え返すことは可能? 名誉毀損や虚偽申告

2023年06月20日
  • 性・風俗事件
  • 冤罪
  • 訴え返す
痴漢の冤罪で相手を訴え返すことは可能? 名誉毀損や虚偽申告

宮崎県内には、JR日豊本線、JR日南線、JR吉都線、JR宮崎空港線といった路線があります。通勤通学時には乗客も多くなりますので、都心部ほどではないとはいえ、痴漢事件が起きる可能性も高くなるでしょう。

混雑時の電車に乗車をしている男性は、本当は痴漢をしていないにもかかわらず、女性から「この人が痴漢をした」と告発されるおそれがあります。このような痴漢冤罪の大半は、女性側の悪意によるものではなく勘違いによって発生するものですが、ごくまれに、示談金目的で意図的に犯人に仕立てられてしまうこともあります。

もし痴漢冤罪に巻き込まれてしまった場合には、痴漢の犯人として不当な扱いを受けてしまう可能性があるため、冷静で適切な対処が必要になります。本コラムでは、痴漢冤罪に巻き込まれた場合の対処法や相手を訴え返すことができるかどうかについて、ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスの弁護士が解説します。


刑事弁護・少年事件についてはこちら 刑事弁護・少年事件についてはこちら

1、痴漢はどういう罪になる? 冤罪とは?

以下では、そもそも痴漢とはどのような行為であるのか、痴漢をした場合にはどのような犯罪が成立するのかについて解説します。

  1. (1)痴漢とは

    痴漢とは、相手に対して卑わいな行為をしたりするなど、性的な嫌がらせを行うことをいいます。
    たとえば、電車内で女性のお尻を触る行為や夜道などですれ違いざまに女性の胸をもんだりする行為が、痴漢の典型例となります。

  2. (2)痴漢によって成立する可能性がある犯罪とは?

    痴漢行為をした場合には、以下のような犯罪が成立する可能性があります。

    ① 強制わいせつ罪
    強制わいせつ罪とは、13歳以上の人に対して暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合や、13歳未満の人に対してわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です(刑法176条)。
    13歳未満の人に対しては、暴行または脅迫を用いなくても強制わいせつ罪が成立する点に注意してください。

    13歳以上の人に対して強制わいせつ罪が成立する場合には、「暴行」または「脅迫」が行われる必要があります。
    ただし、痴漢における「暴行」の範囲は、法律上は、広くとらえられています。
    たとえば、殴る・蹴るといった行為に限らず、身動きができない状態でスカートのなかに手を差し入れる行為も「暴行」と認められることがあるのです。
    したがって、痴漢行為は、強制わいせつ罪に該当する可能性があります。

    強制わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以内の懲役刑です

    ② 迷惑防止条例違反
    痴漢行為は、各都道府県が定めている迷惑防止条例に違反する可能性があります。
    たとえば、宮崎県迷惑防止条例では、公共の場所や公共の乗り物において、衣服等の上からまたは直接人の身体に触れることや卑わいな言動をしてはならないことが定められています(宮崎県迷惑行為防止条例2条)。
    電車内で女性のお尻を触るなどの行為をした場合には、迷惑防止条例違反になる可能性があります。

    卑わいな行為によって迷惑防止条例違反となった場合には、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります


  3. (3)冤罪とは

    冤罪とは、実際は罪を犯していないにもかかわらず、罪を犯したものと扱われてしまうことです。

    痴漢については、警察・検察が痴漢被害者の言い分を信じて一方的な捜査を進めてしまったり、告発されて警察に取り調べを受けた人が「早く事態を解決したい」と焦ったためにやってもいない罪を認めてしまったりすることがよく起こるために、冤罪が生じやすくなっているのです

2、痴漢を疑われた後の対処方法

痴漢を疑われた場合には、以下のような対処法が考えられます。

  1. (1)冤罪であることを主張し続ける

    痴漢を疑われてしまった場合には、自分はやっていないということを毅然(きぜん)とした態度で主張し続けることが大切です

    被害者からとっさに手をつかまれて「痴漢です!」と言われると、気が動転してしまい「すみません」などと謝ってしまう方も多くいます。
    しかし、痴漢行為をしていないのであれば、できるだけ謝らずに、「自分は何もしていない」と冷静に主張するようにしましょう。

  2. (2)目撃者を探す

    痴漢を疑われてしまった場合には、周囲の人のなかに自分が無実であることを証明してくれる人がいないかどうか、探してみましょう

    他の乗客を置いて被害者とふたりだけで電車を降りてしまうと、目撃者を探すのが困難になりますので、周囲の人に証言をしてもらえるよう協力を頼んでみてください。

  3. (3)会話などを録音する

    痴漢を疑われてしまった場合には、被害者との会話を録音しておくことも有効な手段になります

    会話を録音しておけば、自分が当初から痴漢行為を否定していたという事実を証拠として残すことができます。
    また、被害者から誹謗中傷を受けたという事実がある場合にはそれ記録に残すことができるため、後日になって被害者を訴え返す場合にも有力な証拠となるでしょう。

  4. (4)弁護士を呼ぶ

    痴漢の疑いをかけられてしまった場合、多くの方は気が動転してしまい、どのように対応すればよいかわからなくなってしまいます。
    もし痴漢の疑いをかけられてしまった場合には、ただちに弁護士に連絡をして、助けを求めましょう

    痴漢冤罪は、最初の対応を誤ると、疑いを晴らすことが難しくなってしまいます。
    自分がやってもいない罪で処罰されることを避けるためには、事件の当日から弁護士のサポートを受けることが重要になります。

まずはお気軽に
お問い合わせください。
電話でのお問い合わせ
【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
メールでのお問い合わせ一覧
営業時間外はメールでお問い合わせください。

3、痴漢冤罪で相手を訴え返すことは可能? 刑罰に問える?

以下では、痴漢冤罪事件に巻き込まれた場合に、自分を訴えた相手を訴え返すことができるかどうかについて解説します。

  1. (1)刑事上の責任を問う方法

    痴漢冤罪に巻き込まれたとき、相手が冤罪であるということを知っていながら意図的に自分を訴えたという場合には、以下の罪に問うことができる可能性があります。

    ただし、痴漢行為が事実であるにもかかわらず、自分から相手を刑事告訴した場合には、自分のほうが虚偽申告罪などに問われる可能性がある点に注意してください

    ① 名誉毀損罪
    名誉毀損罪とは、事実を摘示して、他人の名誉を傷つけることによって成立する犯罪です(刑法230条)。
    電車内で痴漢を疑われた場合には、他の多数の乗客の前で、痴漢の犯人であると告げられ、名誉が毀損されることになります。
    そのため、相手が意図的にうその被害申告をした場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があるのです。

    名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です

    ② 虚偽告訴罪
    虚偽申告罪とは、他人に刑罰を受けさせる目的で捜査機関に対して虚偽の犯罪事実を申告することによって成立する犯罪です(刑法172条)。
    示談金を目的にして痴漢をでっちあげた場合のように、痴漢の犯人でないことを認識していながら捜査機関に被害申告がなされた場合には、虚偽告訴罪が成立する可能性があります。

    虚偽告訴罪の法定刑は、3月以上10年以下の懲役です


  2. (2)民事上の責任を問う方法

    冤罪だとわかっていながら痴漢を告発した相手に対しては、上記のような刑事上の責任だけではなく、民事上の責任を問うこともできます。

    痴漢冤罪によって犯人とされた方は、やってもいない罪で取り調べを受けることになり、多大な精神的苦痛を受けることになります。
    また、家族や職場に痴漢を疑われたことが知られてしまうと、離婚や解雇などの社会的な不利益を受けることもあるでしょう。
    このような不利益を受けることによって損害が生じた場合には、痴漢をでっちあげた相手を民事訴訟により訴え返すことによって、損害賠償を請求することができるのです
    具体的には、精神的苦痛という損害に対する賠償金である「慰謝料」を請求することになるでしょう。

4、強制わいせつ罪の冤罪で訴え返すことが成功した実際の事例

痴漢冤罪に関連するものとして、強制わいせつ罪の冤罪に訴え返すことに成功した事例として、仙台高等裁判所平成16年1月29日判決を紹介します。
事案の概要と裁判所の判断は、以下の通りでした。

  • 事案の概要
    被告人である女性は、結婚間もない夫の関心を引く目的で、強制わいせつの被害を受けたといううそをつきました。
    夫は、被告人の言い分を信じて警察に届け出ると言い出したため、後に引けなくなった被告人は、たまたま夫を訪ねてきた男性を犯人に仕立てあげ、警察に被害届を提出しました。
    警察での取り調べでもうそを重ねて、虚偽の告訴をした結果、犯人に仕立てあげられた男性は、身柄拘束を受けることになり、肉体的にも精神的にも多大な精神的苦痛を受けることになりました。

  • 裁判所の判断
    裁判所は、虚偽告訴によって犯人に仕立て上げられた男性が、嫌疑不十分により釈放されるまで19日間も身柄拘束をされたこと、濡れ衣を着せられ名誉を毀損されたことにより当時経営していた事業を続けることができなくなるなどの多大な損害を受けたことを挙げつつ、被告人である女性が民事裁判でもうそをつき続けるなど犯行後の悪質性を考慮した上で、懲役1年の実刑判決に処しました。


5、痴漢冤罪のときは弁護士に相談

やってもいないのに痴漢だと訴えられてしまった場合には、ただちに、弁護士に相談してください。

  1. (1)逮捕や勾留の回避

    痴漢の疑いをかけられてしまうと、たとえそれが冤罪であったとしても、逮捕や勾留といった身柄拘束を受ける可能性があります。
    逮捕・勾留による身柄拘束は、最長で23日間にも及びますので、長期間の身柄拘束による著しい不利益を受けることになります。

    身体拘束に耐えられないために、やってもいない罪を認めてしまう方もいますがそのような対応は絶対にしてはいけません
    一度でも罪を認めてしまうと、その後にそれを覆すことは著しく困難になってしまうためです。

    痴漢の疑いで逮捕されしまった場合には、初期対応が肝心です。
    まずは、弁護士に相談をするようにしましょう。
    弁護士であれば、痴漢冤罪によって身柄拘束をされることがないように捜査機関にはたらきかけることができます

  2. (2)慰謝料請求のためのサポート

    痴漢の冤罪を着せられた方は、多かれ少なかれ何かしらの損害を受けることになります。
    冤罪による被害を受けた場合には、事実に基づかない訴えをした相手に対して、損害賠償を請求して訴え返すことができます。

    ただし、相手を訴え返すためには、相手が名誉毀損や虚偽告訴をしたということを証拠によって立証しなければなりません。
    民事訴訟においても、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です

6、まとめ

痴漢の疑いをかけられて、犯人に仕立て上げられてしまうと、きわめて大きな不利益を受ける可能性があります。
痴漢による身柄拘束や刑事裁判を避けるためには、ただちに弁護士に相談することが重要です。

痴漢の冤罪を着せられしまった方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています