サービス業で起こりがちな持ち帰り残業分も残業代請求できるって本当?
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令和3年5月28日、コロナ禍の影響により残業代が減少し、現金給与総額は過去最大の減少額となったことを宮崎日日新聞が報道しました。主に飲食店などのサービス業を中心に営業時間の短縮を余儀なくされたことが影響を受けたと分析されています。
しかし他方で、残業代を支払わなくなった、または過小に残業代を計算するようななった会社があるとも考えられます。本コラムでは、残業代未払い問題の中でも、特に請求が難しいいわゆる「持ち帰り残業」について、ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスの弁護士が解説します。
1、持ち帰り残業とは
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(1)持ち帰り残業の定義
持ち帰り残業とは、「本来会社でやるべき仕事を、自宅に持ち帰って行うこと」を指す一般的な言葉です。法令や裁判例において定義付けされているわけではありません。
一般に、持ち帰り残業は残業代の請求が認められにくいとよくいわれます。その理由のひとつに、仕事をしていたということの証拠が残りにくいことが挙げられます。
「持ち帰り残業をしたくてしているわけじゃないよ!」という方のほうが多いでしょう。
持ち帰り残業が発生しやすいのは以下のようなケースです。
- 残業が禁止されている
- 会社が想定する労働時間では終わらないような作業量が割り振られている
なかには、社員に対し、所定の終業時間で上がることを命じる一方で、過大な業務を与えて持ち帰り残業をさせて、その分の賃金を払わないようにしているという悪質な場合もあり、注意が必要です。
残業が禁止されているのは、一見社員のことを考えてくれているとてもよいルールに聞こえるかもしれません。しかしその反面、過剰なタスクをこなさなければならないという職場の雰囲気があると、仕事を持ち帰らざるを得ない状況に陥ってしまいがちになるのでしょう。 -
(2)持ち帰り残業増加の背景
持ち帰り残業は増加している理由のひとつとされているのが「働き方改革」です。「働き方改革で残業が禁止になったけど、業務内容はそのまま」という企業が少なくないともいわれています。本来、働き方改革とは業務負担を考慮することも含まれるものであるはずなのに、そのような企業は単に見せかけの労働時間を削り「働き方改革をした」と考えているのでしょう。
他方、コロナ禍による業績悪化も持ち帰り残業増加の背景のひとつとなっている可能性も考えられます。持ち帰り残業とは異なりますが、リモートワーク実施時に就業時間が延びているにもかかわらず、残業として認められず残業代が支払われないケースもあるようです。
2、持ち帰り残業の残業代は発生する?
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(1)「持ち帰って仕事をした」だけでは残業代は発生しない可能性がある
場所は家だとしても、仕事をしていることには変わりありません。それでも、「仕事をしている」というだけでは残業代は発生しない可能性があるのです。
なぜなら、労働時間だと認識され残業代を払ってもらうには、上司からの指示や命令(暗黙の命令も含む)が必要となるためです。上司からの指示や命令がなく、「自分の意思で持ち帰っていた」ということにされてしまうと、残業代を請求することは難しいでしょう。 -
(2)持ち帰り残業で残業代が発生する可能性のあるケース
持ち帰り残業の残業代請求は、難しいケースが多いといわれていますが、請求できることもあります。
具体的には、以下のようなケースでは請求できる可能性があります。
- 上司が持ち帰って仕事をしていることを知っていた
- とてもひとりでは終わらないような業務を押し付けられていた
- 午後10時に会社は消灯、もしくは店舗から出なければならないが、とてもその時間までに終わらない仕事量だった
上司が、あなたが持ち帰り残業をしていることを知っていた場合、残業代が発生する可能性があります。上司が認識しているということは、その時間も上司の指揮命令下にあるとみなされる場合があるためです。「自発的に行っていたのか、上司の指揮命令下で行っていたのか」というのは、持ち帰り残業で残業代が発生するかどうかの、ひとつの要素になります。
また、上司から指示された仕事量が膨大で、残業をせざるを得ない場合もあります。また、職場環境的に、持ち帰り仕事をせざる得ない状況が暗黙のルールと化しているケースもあるでしょう。
この場合、上司から明確に「残業するように」という指示がなかったとしても、現実的にこなすことが難しい膨大な業務を与えた時点で黙示的に「残業を命じた」と認められる場合があります。明確な発言がなくても、黙示の命令が認められて、残業代を請求できるケースがあるのです。
3、持ち帰り残業の残業代を請求するために
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(1)持ち帰り残業分の労働時間の立証
持ち帰り残業の残業代を請求する場合、まずは、持ち帰り残業時間を算出することが必要です。
「家で自由な時間を過ごしていたのに、残業代を不当に請求しようとしているのではないか?」という疑いをかけられないように、しっかりとした証拠を残していくべきです。
具体的な証拠の集め方は、以下の方法があります。
- 業務用パソコンのログイン・ログオフの記録
- 行っていた仕事の内容、時間の詳細の記録
- 業務報告などのメール
日々自分で記録をつける場合は、継続的に行うことが重要です。また、改ざんが疑われないように事後的な変更が困難な方法(消せないペンで日々の出来事を書き込む等)で記録を残しましょう。
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(2)証拠が集められない場合は?
「今まで記録をまったくつけていなかった」という方であっても、必ずしも諦める必要はありません。明確な証拠がなくとも、間接的な証拠を集めることで、残業代を請求できるケースもあります。
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(3)持ち帰り残業の残業代請求方法
証拠を集められたら、それを活用して残業代を請求しましょう。
残業代を請求するための3段階、「交渉・労働審判・裁判」の流れを解説します。
●交渉
証拠を集めたら、まずは会社に残業代を支払うように求める請求書を送付し、交渉をスタートします。持ち帰り残業の場合は、「会社の指示ではなかった」、「実際に作業していたかどうか証明できない」と反論されることも大いに考えられます。
弁護士に依頼すると、法的にも適切な主張を行いつつ、裁判を視野に入れた交渉を行います。自身で会社と交渉する必要はありません。交渉の段階で和解できれば、早期に解決できるでしょう。裁判に至ると、結論が出るまで1年以上争い続けなければならなくなる可能性が出てきます。
●労働審判
労働審判は、裁判官も入って進める法的手続きです。労働審判ではより証拠品が重要になります。
労働審判の場合、最終的に判決を下すのは裁判官です。客観的に残業をしていることがわかれば、有利な決定が下されることになるでしょう。
労働審判は多くても3回の期日で決着がつくので、早期解決を望んでいる場合に活用するとよいでしょう。ただし、審判が出た場合でも、当事者のどちらかが決定に異議を申し立てた場合は訴訟に移行します。
●裁判
裁判においても、証拠は重要です。ただし、決定的な証拠がないからといっても、残業代の請求が全額認められないとは限りません。
裁判所は証拠から残業があった事実を認定します。有利な心証を得るためにもできるだけ証拠を集めておくことが大切です。
4、まとめ
持ち帰り残業は、会社や上司の指示があること、そして残業していたことを証明できる証拠があること、という2つの条件をクリアしていることが必要です。持ち帰り残業の残業代請求は、数ある残業代請求の中でも難しいものに分類されるので、請求しようと思った段階で弁護士に相談したほうがよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスでもご相談を承っています。持ち帰り残業の残業代請求をしたい、できるかどうかわからない、どうすればよいのかわからないなど、あなたの状況に合わせて適切なアドバイスをします。ひとりで抱え込まず、まずは気軽に相談してください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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