財産分与の対象となる預貯金を隠す!? 調査する方法はあるのか?
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宮崎県が公表している生活統計資料によると令和元年度の宮崎県の離婚件数は2040件で、離婚率(人口千対)は、1.92でした。全国の離婚率が1.69であったことからすると、宮崎県内の離婚率は全国に比べて高い水準であることがわかります。
離婚の際には、夫婦の共有財産を対象として財産分与を行います。しかし、長い間婚姻生活を共に過ごしていても、相手がどのような財産を持っているのかを正確に把握できていない方もおられるでしょう。離婚時に相手に対して財産の開示を求めたとしても、「これがすべてだ」と言われてしまったら、たとえ他に財産があったとしても、確認することが困難です。
このように財産分与の対象となる財産を隠されてしまった場合には、どのように対応すればよいのでしょうか? 本コラムでは、財産分与の対象となる預貯金が隠されてしまった場合の調査方法などについて、ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスの弁護士が解説します。
1、財産分与の対象となる財産と時効
まず、財産分与の対象となる財産の種類や、財産分与の時効について解説します。
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(1)財産分与の対象となる財産とは?
財産分与は、夫婦が協力して維持・形成してきた財産を清算するための制度です。そのため、財産分与の対象となるのは、夫婦の「共有財産」に限られます。
夫婦の共有財産に含まれるかどうかは、当該財産の名義という形式面ではなく、婚姻期間中の夫婦の協力によって維持・形成されたかどうかという実質面によって判断されます。
そのため、婚姻期間中に取得した以下の財産については、その名義を問わず、財産分与の対象に含まれるのです。- 現金、預貯金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 不動産
- 生命保険や個人年金の解約返戻金
- 退職金
他方で、独身時代に貯めた預貯金や親から相続した不動産など、夫婦の協力関係とは無関係に取得した財産は「特有財産」として扱われ、財産分与の対象外となります。
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(2)財産分与と時効(除斥期間)
離婚時に財産分与を請求しなかった場合や財産分与でもめたために離婚を先行させたという場合には、財産分与の期限に注意が必要です。
財産分与には、「離婚が成立した日から2年」という期間の制限があります。
2年を経過してしまうと、相手が任意に応じてくれない限りは、財産分与を請求することができなくなってしまいます。
財産分与の期間制限は、時効ではなく除斥期間であるとされていますので、時効のように完成猶予や更新などはなく、必ず2年以内に請求しなければなりません。
請求期限が迫っている場合には、できるだけ早く財産分与を請求することをおすすめします。
2、財産分与できるはずの預貯金を隠されてしまったら
財産分与の対象となる預貯金が隠されてしまった場合の対応について解説します
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(1)財産分与の対象財産を調査
財産分与で少しでも多くの財産を獲得するためには、話し合いの前提として、正確な財産調査が必要になります。
具体的な財産調査の方法については、「相手に対して財産開示を求める方法」「弁護士会照会を利用する方法」「裁判所の調査嘱託を利用する方法」などがあります。これらの方法によって、相手が隠している預貯金を明らかにすることができます。
相手が「これがすべての財産だ」と言っていたとしても、直ちにそれを信用するのではなく、必要となる調査をしっかりと行うようにしましょう。 -
(2)財産分与の請求期限が経過してしまったら損害賠償請求
財産分与の対象となる預貯金を除外したまま財産分与がなされてしまうと、本来であればもらうことができるはずの財産よりも少ない財産しか得られない可能性があります。
相手が財産を隠していることが発覚した場合には、その財産を対象として再度財産分与を求めることも可能です。ただし、財産分与の請求期限が経過してしまうと、財産分与を請求することができなくなってしまうのです。
一方で、「相手が預貯金を隠すことによって、本来得られるはずであった財産を得ることができなくなった」という損害が生じたことにもなるため、不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできます(民法709条)。
3、隠し財産の探し方
相手が財産を隠しているかどうかについては、以下のような方法で調査することができます。
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(1)相手に財産の開示を求める
まずは、相手に対してすべての財産を開示するように求めましょう。
預貯金の開示を受けた場合には、通帳の履歴などを確認して、給与や賞与、配当金など本来あるはずの入金が記録されているかを確認できます。このような記録がない場合には、他にも預貯金口座を保有している可能性がありますので、相手に対して再度開示を求めるようにしましょう。
また、保険料の支払いや定期預金への積み立てなどの出勤記録がある場合には、保険の解約返戻金や定期預金についても財産分与の対象になりますので、それについても開示を求めてください。
さらに、預貯金口座を開設している金融機関から定期的にお知らせのハガキなどが届くことがあるため、自宅に届く郵便物などをチェックすること、相手の財産を把握することができる場合があります。
財産分与を請求してからだと相手が隠匿するなどして調査をすることが難しくなるおそれがあるため、離婚を検討されている場合には、相手に離婚の意思を告げたり前や別居したりする前に財産調査を済ませておくことが賢明だといえます。 -
(2)弁護士会照会を利用する
相手が任意に財産の開示を行わない場合には、弁護士会照会という方法を利用して相手の財産を調査することもできます。
弁護士会照会とは、弁護士が依頼された事件に関して、証拠を収集する目的で企業や官公庁などの団体に照会を行うことができる制度のことをいいます。
弁護士会照会は、個人では利用することができず、必ず弁護士に依頼をすることが必要となります。
また、弁護士会照会を利用する目的だけで弁護士に依頼をすることはできず、離婚などの具体的な事件処理に必要な範囲でのみ利用することが認められているのです。
ただし、弁護士会照会に対する回答を拒否したとしても罰則の適用はなく、照会先や照会内容によっては、対象者のプライバシーなどを理由として回答を拒否されることもあります。 -
(3)裁判所の調査嘱託を利用する
離婚の際に財産分与を請求する場合、話し合いで解決することができなければ、離婚調停や離婚裁判によって解決を図ることになります。
また、離婚後に財産分与を求める場合には、財産分与請求調停や審判といった手続きで解決を図ることになります。このような裁判手続きを行う場合には、調査嘱託という方法を利用することができます。
調査嘱託とは、当事者からの申し立てを受けて、裁判所が官公庁や企業などの団体に対して、一定の調査や情報の開示を求める制度のことです。
弁護士会照会によって回答を拒否された場合であっても、裁判所からの調査嘱託に対しては回答をする団体が多いため、隠し財産を調査する場合には、有効な手段となります。
4、弁護士に相談したほうがよいケース
以下のようなケースでは、個人の力で対応することは困難であるため、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)任意に財産の開示が得られないケース
相手に対して財産の開示を求めたものの、納得いく結果が得られなかったという場合には、弁護士にご相談ください。
任意の開示に応じない場合には、弁護士会照会や調査嘱託といった方法によって相手の財産を明らかにすることができますが、上述した通り、弁護士会照会は弁護士に依頼をしなければ利用することができません。また、調査嘱託についても、調査嘱託の必要性を訴えることや適切に照会先の選択することなどは、不慣れな方では判断することができません。
弁護士に依頼をすることによって、これらの手続きをすべて任せることができますので、調査に要する負担を軽減することができます。
また、隠し財産を明らかにすることによって、財産分与でもらうことができる金額も増加することが見込めますので、離婚後の経済的な不安の解消にも役に立つでしょう。 -
(2)財産の保全が必要なケース
相手による財産の隠匿だけでなく財産の処分のおそれがあるという場合には、財産処分を防止するために「財産の保全」を検討しなければなりません。
調停や裁判で結論が出るまでには、長い時間がかかりますが、その間に相手によって財産が処分されてしまうと有利な財産分与の条件を勝ち取ることができたとしても、それに従った金銭の給付を受けることができなくなってしまいます。
このような事態を回避するため、あらかじめ相手の財産を確保しておき、相手による散逸を防止する方法のことを「財産の保全」というのです。
財産の保全には、民事保全手続きと審判前の保全手続きという2種類の手続きがあります。保全の対象となる財産については、申し立てをする側で特定して行わなければならず、専門的かつ複雑な手続きとなります。
そのため、適切に財産の保全を行うなら、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
5、まとめ
離婚する夫婦のなかには、財産分与の対象となる財産を減らそうとして、配偶者に知られていない財産を隠してしまう、という方がおられます。
このような財産隠しをされてしまうと、正確に財産を把握していない配偶者では調査することが困難です。
適切な財産分与を実現するため、弁護士のサポートを受けましょう。
宮崎県で財産分与や離婚に関する問題についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスまで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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