医療費は自己破産の対象? 手続きと医療費が支払えない時の対処法
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持病や障害などがある方にとっては、医療費(治療費・入院費・薬剤費など)の支払いが大きな負担になるでしょう。場合によっては、生活を圧迫するほど医療費の負担が重なってしまうおそれもあります。
医療費の支払いが難しい場合には、まずはご自身の加入している医療保険や、公的支援制度のご利用をご検討ください。それでも支払いが困難な場合には、自己破産をはじめとした債務整理による解決策について、弁護士の相談を受けたうえで検討しましょう。
本コラムでは、医療費が支払えない場合に利用できる公的支援制度や、自己破産などの債務整理による解決方法について、ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスの弁護士が解説します。
1、医療費の支払いが難しい場合、自己破産できる?
医療費の支払いが積み重なり、完済が難しくなってしまった場合、自己破産をすることが解決策のひとつとなります。
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(1)自己破産が認められる要件
自己破産は、「支払不能」の状態にある債務者が申し立てることができます(破産法第15条第1項)。
「支払不能」とは、支払能力を欠くために、弁済期の到来した債務を一般的・継続的に弁済できない状態です(破産法第2条第11項)。
借金や医療費などが原因で月々の収支が赤字であり、債務の総額がどんどん増えていっている状態であれば、支払不能と認められる可能性が高いでしょう。
また、支払不能の状態である他にも、自己破産を申し立てる際には、以下の要件を満たす必要があります。- 裁判所に予納金を納付すること(破産法第30条第1項第1号)
- 不当な目的を有するなど、申し立てが不誠実なものでないこと(同項第2号)
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(2)医療費も破産免責の対象になる
自己破産を申し立てると、債務者の財産が処分されて債権者へ配当された後、最終的に残った債務は、原則としてすべて免責されます。
これを「破産免責」と言います。
破産免責は、「非免責債権」(破産法第253条第1項)を除くすべての債権(債務)が対象です。
医療費は非免責債権ではないため、破産免責が認められれば、医療費の支払い債務についてもすべて免責を受けることができます。 -
(3)自己破産をしても、その後医療を受けることは可能
自己破産によって医療費の免責が認められた場合でも、債務者は引き続き、すべての医療機関で医療を受けることができます。
診療に従事する医師は、患者から診察治療の求めを受けた場合、正当な事由なく拒否することはできません(医師法第19条第1項)。
これを「応召義務(おうしょうぎむ)」と言います。
患者が過去に自己破産をしたことは、応召義務が免除される「正当な事由」にはあたりません。
医療機関が、自己破産によって免責された医療費請求権の債権者であった場合も同様です。
したがって、「自己破産をしたら、診察を受けられなくなるのではないか」と心配する必要はないのです。
自己破産をした方も、引き続き問題なく医療を受けられますので、ご安心ください。
2、医療費を支払うために借金をした場合、発生する主なリスク
医療費の支払いが高額に及んだ場合には、不足した生活費を補うために借金をする方もおられます。
しかし、医療費支払いのために借金をしてしまうと、以下のようなリスクを負うことになってしまいます。
返済のめどが立つのであれば問題ありませんが、ご自身の収入に比べて過大な借金を背負っている場合には注意してください。
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(1)滞納すると遅延損害金が発生する
借金の返済を滞納した場合、遅延損害金が発生します。
遅延損害金とは、金銭債務の支払いが遅れたことに伴う損害賠償金です。
滞納金額に対して、債権者・債務者間で約定があれば約定利率に従って遅延損害金が発生します。
一般的には、金融機関との間で金銭消費貸借契約を締結する場合、遅延損害金の約定利率は高めに設定される傾向にあります(年14%、年14・6%、年20%など)。
そのため、滞納期間が長引くと、遅延損害金だけでもかなり大きな負担となってしまう点に注意してください。 -
(2)財産を差し押さえられるおそれがある
借金返済の滞納状態が続くと、債権者が支払督促や訴訟手続きを経て、強制執行を申し立て、債務者の財産が差し押さえられてしまうおそれがあります。
差し押さえの対象となるのは、差押禁止財産を除いたすべての債務者の財産です。
具体的には、預貯金・給与債権の一部・不動産などが主に差し押さえの対象となります。
生活に最低限必要な財産は、差押禁止財産として保護されていることから、生活に大きな支障が生じることはありませんが、執行手続きによる負担は大きいでしょう。
強制執行(差し押さえ)が行われる前段階として、裁判所から支払督促や訴状が送達されます。
もしこれらの書面の送達を受けた場合には、無視せずにきちんと対応することで、財産の差し押さえを回避しましょう。
3、医療費が支払えない場合には、公的支援制度のご利用を
医療費の負担が重く、支払いが困難な場合には、まず公的な支援制度の利用を検討してください。
医療費の支払いについては、さまざまな公的支援制度が設けられています。
以下に、患者の方が利用できる公的支援制度の例を紹介します。
年齢・所得に応じた毎月の上限額を超えた部分について、医療費の自己負担額の払い戻しを受けられる制度です。
② 高額医療費貸付制度
高額療養費制度による払い戻しには数か月を要しますが、当座の医療費の支払いが難しい場合には、この制度によって健康保険から貸し付けを受けることができます。
③ 限度額適用認定証
高額な医療費がかかることがあらかじめわかっている場合には、健康保険から交付を受けた「限度額適用認定証」を提示することで、医療機関窓口での支払額を毎月一定以下に抑えることができます。
④ 傷病手当金
病気やケガで休業した場合には、休業4日目以降、健康保険から生活保障を目的とした「傷病手当金」を受給できます。
利用可能な制度があれば、加入している健康保険の窓口や税務署へ問い合わせてみましょう。
4、医療費の支払いに困った場合、自己破産について弁護士にご相談を
公的な支援制度を利用しても、ある程度の医療費は、ご自身で負担しなければなりません。
その支払いがどうしても難しい場合には、以下の債務整理を行うことをご検討ください。
債権者との交渉により、債務の減額や支払期日の変更などを認めてもらう手続きです。
迅速・柔軟に債務負担を軽減できるというメリットがあります。
ただし、任意整理を成立させるためには、債権者の同意が必要になります。
② 個人再生
裁判所を通じて、債務の減額や返済期日の変更を認めてもらう手続きです。
一部の債権者が同意していなくても、再生計画に基づく債務の減額等が認められる可能性があります。
③ 自己破産
裁判所の破産手続きを通じて、財産の処分と引き換えに、債務全額を免除してもらう手続きです。
支払不能の状態であることなどの条件を満たせば、誰でも自己破産を申し立てることができます。
とくに、多重債務状態に陥っている場合・借金額が非常に高額な場合・処分されたら困る財産がほとんどないという場合などには、自己破産を選択することを検討する必要があるでしょう。
弁護士であれば、債務者のご状況に合わせた適切な債務整理の方法を提案することができます。
また、実際の債権者との交渉や裁判手続きについても、弁護士に任せることができます。
医療費の支払いが困難になってしまった方は、債務整理などの方法を検討するために、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
医療費の支払いが難しくなった場合、ご自身の加入している医療保険に対する保険金請求や、各種の公的支援制度の利用により賄うことが考えられます。
それでも医療費の支払いが困難な場合には、弁護士に相談したうえで、債務整理を行うことも検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所の弁護士は、お客さまの状況を丁寧にヒアリングしたうえで、法律の専門知識に基づきながら、適切な対処方法を提案いたします。
医療費の支払いが難しくなりお悩みの方は、お早めに、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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