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引き継ぎせずに退社する社員には、解雇や損害賠償請求はできる?

2021年09月27日
  • 労働問題
  • 解雇
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引き継ぎせずに退社する社員には、解雇や損害賠償請求はできる?

宮崎労働局によると、令和元年度に県内の労働基準局に寄せられた総合労働相談件数は、約1万件にのぼるとされます。退職や解雇に際しては、労働者側の視点がクローズアップされがちですが、会社側としても、業務の引き継ぎをせずに退社しようとする社員がいるなど問題を抱えることが少なくありません。

このような社員に対しては、解雇や損害賠償請求はできるのでしょうか?

本コラムでは、業務の引き継ぎを拒否して退社しようとする社員への対処法について、ベリーベスト法律事務所 宮崎オフィスの弁護士が解説します。

1、社員の業務の引き継ぎ拒否への対処法

退社する社員が業務の引き継ぎを拒否している場合には、次のような対応策をとることが考えられます。

  1. (1)有給の時季変更権を行使する

    解雇であっても依願退職であっても、社員が退職日まで年次有給休暇を取得して出社しないのであれば、引き継ぎができません。

    そういったケースでは、会社に認められている有給休暇に関する「時季変更権」を行使して、引き継ぎのために業務を行うよう交渉することが、最初に取りうる対応策になります

    「時季変更権」は、労働者の有給取得が事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は他の時季に有給取得時期を変更できるとするものです。業務の引き継ぎがなされないことは、事業の正常な運営を妨げることになりえます。そのため、時季変更権を行使できる可能性があるのです。

    ただし退職日まで十分に日がない場合などには、変更できる有給取得日がなく、時季変更権を行使することが難しいこともあります。そのようなケースでは、労働者と話し合って退職日を先に延ばすなど、労働者の権利も保護しながら引き継ぎが行われるように対応することが求められるでしょう

  2. (2)インセンティブを提案する

    かたくなに引き継ぎを拒否して退社しようとする社員に対しては、損害賠償や解雇などの責任追及や処分がまず思い浮かぶかもしれません。しかし、これらの対応が裁判で争いになったときには、因果関係の証明が困難であったり厳しい要件を満たさなければならなかったりと、会社側の主張が通る可能性はそう高いものではありません。

    そのため労働者が「引き継ぎをしよう」と思えるインセンティブを与えることも、対応策になります。たとえば有給買い取りや退職金の上乗せなど、引き継ぎをすることによって労働者にもメリットがあるような提案をすることが考えられます。

  3. (3)損害賠償請求を検討する

    退社する社員が引き継ぎを一切拒否したために、会社が損害を受けたときには、損害賠償を請求できる可能性があります

    労働者には、会社に対する信義則上の義務として、退職する際に誠実に引き継ぎを行う義務があります。もっとも裁判での損害賠償請求は、実際に発生した損害と引き継ぎ拒否の因果関係を会社側が立証しなければならないなどの大きな負担がかかるほか、賠償が認められる可能性もそう高くはありません。そのため損害賠償を請求する場合でも、慎重に検討したうえで行う必要があるといえるでしょう。

    退職者に対する損害賠償請求についての裁判例は「3、退職時の引き継ぎをめぐる裁判例」でご確認ください。

  4. (4)解雇などの懲戒処分を検討する

    引き継ぎ拒否をする社員に対して、懲戒処分を検討することもひとつの選択肢になります
    ただし懲戒処分をするのであれば、就業規則にその旨の規定を設けていることが必要になります。

    なお、もっとも重い処分である懲戒解雇を検討するときには、会社としては慎重な対応が必要になります。なぜなら労働者が引き継ぎを拒否したことを理由とする懲戒解雇は、権利濫用として、裁判になったときに認められない可能性があるためです。

    解雇が有効であるためには、客観的にみて合理的といえる理由があって社会の常識と照らし合わせても相当といえる場合でなければならないとされています。引き継ぎ拒否を理由として懲戒解雇とするのであれば、あまりに重い処分であり、不当解雇と判断されてしまう可能性があるので注意が必要です

  5. (5)退職金の減額などを検討する

    就業規則などに、引き継ぎをしなければ退職金を減額するなどの規定を設けている場合には、規定を適用できる可能性があります。ただしこの場合でも、引き継ぎ拒否という行為に対して相当といえる範囲での減額でなければなりません。

    このように退職金の減額を検討する対応策もありますが、引き継ぎを行うことによって退職金を上乗せするなどのインセンティブを与えることも検討するとよいでしょう。退職金の不支給についての裁判例は「3、退職時の引き継ぎをめぐる裁判例」で解説します。

2、従業員が引き継ぎを拒否できるケースとは

会社は、雇用契約に基づいて、労働者に対して引き継ぎをするように業務命令を出すことは可能です。しかしそうはいっても社員が体調不良などを理由に欠勤してしまえば、実際には強制的に引き継ぎを行わせることはできません。

そしてそのまま退職日になってしまえば、雇用関係はなくなるため、元従業員は引き継ぎを拒否できることになります。したがって会社としては、退職の効力が生じる前に対応策をとる必要があります。

ただし、会社側は、労働者が引き継ぎを拒否できないように、退職を認めないといった対応はできません。労働者には、退職の自由が憲法上認められているためです。

3、退職時の引き継ぎをめぐる裁判例

参考までに、退職時の引き継ぎをめぐる裁判例として、労働者の損害賠償責任を一部認めた判例と退職金の不支給を認めた判例をご紹介します。

個別のケースにおける具体的な判断については、顧問弁護士などに相談することが重要です。

  1. (1)退職者に対する損害賠償請求を一部認めた裁判例

    退職者に対する損害賠償請求が一部認められた裁判例を紹介します。

    入社直後の数日で欠勤し1か月後に退職した社員に対し、取引先との契約が解約され損失を被ったとして、会社側は退職者に対して200万円を請求しました。判決では、労働者には雇用契約の終了までは労務を提供する義務があるとして、債務不履行による損害賠償として請求額の一部(70万円)についての請求を認めています(東京地裁/平成4年9月30日判決)。

    もっとも、本事件の判決については、労働者側の対応や会社側の労務管理に問題があるなど本事案に特有のさまざまな点が考慮されています。一般的に、退職者に対する損害賠償請求が認められるかというと、立証などの点から難しいことが多い点に注意が必要です。

  2. (2)退職金の不支給を認めた裁判例

    次に、退職者の引き継ぎが不十分であるとして退職金の不支給を認めた裁判例を紹介します。

    本事件において会社側は、依願退職する場合には退職届の提出後14日間の通常勤務を行わなかった者には退職金を支給しない旨を記載した覚書を労働者と交わしていました。そのため、上記規定にのっとり退職金を支給しなかったところ、労働者が、退職届の提出から退職までの期間の一部を欠勤したからといって退職金が不支給になるのは不合理であるとして、退職金の支給を求め、裁判となりました。

    大阪地方裁判所は、本件で問題となった退職金の不支給の規定では、退職届自体を14日より以前に提出することも可能であったことから、本規定は有効であり、労働者に退職金を支給しなくても問題がないという判決を下しています(大阪地裁/昭和57年1月29日判決)。

    ただし、退職金の不支給・減額の規定があるからといって、すべてのケースで規定が有効になるわけではないことを知っておきましょう

4、引き継ぎトラブルの防止策

最近では、労働者が突然出社しなくなり、退職代行の会社を利用して退職手続きを進めるようなケースも見受けられます。退社時の引き継ぎトラブルは会社の損失につながります。裁判にもなれば、判決が下るまで数年かかるケースも少なくありません。可能な限り事前に防止策を講じて労働者にも十分周知しておくことが大きなポイントになるでしょう。

引き継ぎトラブルの防止策としては、まず就業規則に、引き継ぎに関する規定を定めておくことが考えられます。たとえば退職時の業務の引き継ぎを義務として定め、引き継ぎの義務を果たさなかったときには懲戒処分とすることを規定します。また退職金に関しては、引き継ぎ業務が完了したときに支払うなどの規定を設けて、間接的に引き継ぎ業務が行われるようにすることもひとつの方法です。

なお引き継ぎトラブルは、退職予告期間が短いことによって発生するケースもあります。そのため就業規則に、退職の申し入れは退職日の30日以上前に行うことを定めるなどの対応も引き継ぎトラブルの防止につながる可能性もあります。

ただし、会社にとってのリスクに備えさまざまな規定を定めたとしても、労働基準法をはじめとした各種法律法令にのっとっていない内容であれば、無効となります。あらかじめ弁護士や社労士と相談し、適切な内容の就業規則を作成しておくことをおすすめします。

また、万が一従業員との間で引き継ぎトラブルが起きたときは、早急に弁護士に相談してください。たとえ会社側に非がなくても、報道されたりSNSなどで拡散されたり、業界内でそれらの情報が知れ渡ってしまう可能性があります。そうなれば、会社側に不利益が生じる結果になってしまいがちです。早急に弁護士に対応を依頼することで、問題が大きくになるリスクを回避するための対策をとることができます。

5、まとめ

退職予定の社員が業務の引き継ぎをしないことを理由に、損害賠償請求や解雇といった手段をとったとしても、裁判になれば認められず、会社に不利益が生じる可能性が多々あります。そのため日頃から顧問弁護士に相談するなどして可能な限りの防止策を講じておき、トラブルが生じたときでもスムーズに対応できるようにしておくことをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、顧問弁護士サービスを展開し、社労士や税理士などとも連携しています。宮崎オフィスでも、弁護士が、経営者や担当者の方々とともに企業の発展に貢献できるよう尽力しています。ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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